Special
エッセイ

「文化とは心そのもの」
変わる形、変わらぬ想い

「標葉せんだん太鼓保存会」の5代目会長

今泉春雄さんは、生まれも育ちも双葉町。1992年に結成された「標葉せんだん太鼓保存会」の5代目会長です。

「はじめは創作太鼓でも、長く続けていれば、きっと伝統文化になる」——そう信じて、仲間とともに活動を続けてきました。

ふるさとを離れることになっても、太鼓の音を止めることはなかった今泉さん。
その姿から、文化とは何か、残すことにはどんな意味があるのか、私自身も考えさせられました。

太鼓の音に込めた、ふるさとへの想い

「文化とは、心そのもの」——今泉さんが語ったこの言葉が、今も強く心に残っている。

双葉町で受け継がれる盆踊りは、想いをのせるひとつの形であり、その想いが引き継がれなければ、本当の意味で文化を残したことにはならないと今泉さんは言う。

一緒に踊って一緒に太鼓を叩く。それぞれの役割でひとつのものを創りあげる。その想いが自然と人と人を繋いでいく。これこそが今泉さんの言う「心そのもの」なのではないかと感じる。

今泉さんが生まれ育った双葉町の盆踊りは、町民にとって先祖への供養の場であり、帰省した都会で働く人たち、家族や地元の人たちが集う、年に一度の大切な機会。

「伝統の文化を残すことが当たり前。俺たちが残していかなくちゃならないという責任感、義務感があったね」。

先祖代々受け継がれてきたものを自分たちの代で終わらせるわけにはいかない、という先祖や文化へのリスペクトが今泉さんにはあった。

震災前、毎年開催されていた「双葉町民盆踊り大会」
震災前、毎年開催されていた「双葉町民盆踊り大会」。なかでも、昭和54年から平成18年まで続いた「櫓の競演」は、見応えがあったと、今も語り継がれています。(写真提供:双葉町)

はるか海の向こうから届いたエール

ところが、東日本大震災によって町外へ散り散りになっての避難を余儀なくされた。当然、これまでのような盆踊りはできなくなった。今後、30〜40年は双葉町に戻って来られないと言われていた中、今泉さんたちが「双葉町の盆踊りを復活させよう」と思ったきっかけであり、支えとなったのが「ハワイ」の存在だった。(※)

実は、ハワイには明治時代に福島からの移民らによって伝わった盆踊りの文化が受け継がれている。2014年、ハワイのマウイ島を訪れた今泉さんたちは、マウイの人々にこう勇気づけられた。「生きていく土地は変わっても、歌い続けていく心は変わらない」。

双葉町図書館前のグラウンド
震災前に盆踊りが行われていた双葉町図書館前のグラウンド

太鼓の音で希望を届ける

今泉さんたちは避難生活を続けながらも、元気と勇気を届けるという信念を胸に、双葉町の太鼓の音を各地に届けた。その音は人びとの心の拠り所となり、多くの人が励まされた。

そして、2022年に町の一部で避難指示が解除。その翌年、未来双葉会が中心となり、震災後に初めて念願だった双葉町での盆踊りが行われた。その賑わう景色をみて、今泉さんはようやくふるさとで再開できたと安堵した。

盆踊り

変わるもの、変わらないもの

双葉町の人びとが盆踊りに、標葉せんだん太鼓に心を寄せる。

文化を残すとは、ふるさとの想いを、心を残していくことであり、そのためにもそこに暮らした人や想いへの理解は必要不可欠だ。形は時代に合わせて変えていけば良い。

人が減っても、形は変わっても、ふるさとの伝統の想いはなんとしても残していく。責任と使命を胸に、今泉さんは太鼓を響かせ続ける。

標葉せんだん太鼓

(※)ハワイでは、百年以上前に福島から移民として渡った人々が伝えた盆踊りが、「フクシマオンド」として現地の日系人に今も愛され、唄い継がれています。
映画「盆唄」(https://www.bitters.co.jp/bon-uta/)では、標葉せんだん太鼓保存会の横山久勝さんを主人公に、双葉町の盆踊りとハワイの盆踊りとのつながりやルーツを描き、2017年にいわき市の応急仮設住宅で復活した「やぐらの共演」の様子も収められています。
▶︎現在、動画配信サービス「アジアンドキュメンタリーズ」でレンタル視聴が可能です。

Writer Profile

梅田歩佳

京都市在住の立命館大学3回生。北海道札幌市出身。大学のプログラムを通してこれまでに約15回、相双地域を訪ねる。ミュージカル観劇や野球観戦が趣味。

<ライターおすすめ!相双地域の好きな場所>

相双地域の空は特にきれい。日の出を見に大州海岸へ行った際に見た、ピンクと青のグラデーションの空に感動しました。1番好きな空は星空。息を呑むほどの美しい相双の星空は人生で1番の景色です。

相双地方魅力発信ポータルサイト
「SOUSOU相双」

福島県相双地方振興局
〒975-0031 福島県南相馬市原町区錦町1-30