日々の中に、キラリとひかる体験を。
「kirako」で作る私のガラスアクセサリー
旅にでかけると、その土地ならではのお土産を持ち帰りたくなるものです。今回訪ねた「kirako(キラコ)」は、南相馬市で生まれ育ったガラス作家のNonchiとchanmaruが営むガラス工房兼ギャラリーショップ。扉を開くと、店名の通りキラキラ、そしてカラフルなアクセサリーが目に飛び込んできます。
お店に並ぶ多くのアイテムは、併設する工房で作られたもの。工房併設だからこそ、オリジナルガラスアクセサリーの製作体験も受け付けている。世界にひとつだけのアイテムをつくり、持ち帰れたのなら。ここで過ごした時間もまるごと、とびきりの思い出になるはずです。
初めての体験を求めて
たどり着いた。
南相馬市原町区にあるガラス工房兼ギャラリーショップ「kirako」は、自宅から20分ほどの場所にある。にもかかわらず、扉の前に立った私は、長い時間をかけて、ようやくここまでこれた……という気持ちだった。
仕事や子育てなど、あわただしく日々の暮らしに追われる中、私は「この日まで頑張れば」という予定を入れ、一息つける時間を自分にプレゼントした。
以前からやってみたいと思っていた「kirakoのガラスアクセサリー制作体験」を予約したのだ。
お店には何度か訪ねたことがある。光を浴びてキラリと光るアクセサリーは美しい。透明だけでなく、ピンクやオレンジ、青、緑、紅茶色…..外国の街に似合いそうな、ポップな色のものが多い印象。南相馬で暮らす中では、なかなか目にしない色の世界観が、私は好きだ。
その日はお店に入ると、クリスマスソングが流れていて、それだけで気持ちがふっと軽くなる。ガラスのオーナメントをあしらったクリスマスツリーは今ならではだろう、とっても素敵。
「いらっしゃい」と迎えてくれたのは、店主のNonchiさん、こと三浦さん。ご自身や仲間が作ったアクセサリーを身にまとっていて、いつもおしゃれだ。二児の母であり、ガラス職人として手に職をつけ、暮らしも仕事も楽しむ姿は、私の希望でもある。そんな彼女に会い、日々のことをおしゃべりする時間も、また楽しみだった。
店内にあるアクセサリーを眺め、うっとりしていた私に「今日は、何を作る?」と三浦さんが声をかけてくれた。ピアスにイヤリングにイヤーカフ、見本をいろいろ見せてくれて、早速、ガラスアクセサリー作りが始まる。
赤いイヤーカフを作りたい
何を作ろうかと悩む時間が、もう楽しい。kirakoでは色ガラスもたくさん扱っている。透明のピアス、青色のリング、ピンクのハート型ネックレス…….形もいろいろ、その組み合わせは無限大。
悩んだ末に、私は赤色のイヤーカフを作ることにした。イヤーカフは、耳の軟骨の部分に引っ掛けるようにつける、イヤーアクセサリー。ピアスやイヤリングは持っているけれど、イヤーカフは私自身身につけるのも初めてだからこそ、作ってみたいと思った。
色を赤にしたのは、単純に可愛いと思ったから。それに、クリスマスが終わっても、冬の赤は特別な感じがする。なんだか惹かれてしまうのだ。
2000度の炎でガラスを溶かして
作るものが決まったら、三浦さんがデモンストレーションで作り方を見せてくれる。それなら初めてでも安心して制作できそう!と思いきや、「私にできるかな……!?」と不安になった。
アクセサリーは、真っすぐのガラス棒を溶かして、形づくる。ガラスが溶ける温度は、約2000度。それも、ガスバーナーから直接、ぼおっと音を立てながら吹く火の中で溶かしていく。
「火の中心部でガラスを温めて溶かすんだよ」
「溶けたところから少しずつ曲がるからね」
「一度固まっても、また温めればかたちを変えられるよ」
三浦さんは手元を止めることなく、やり方を丁寧に説明しながら、これから私が作るイヤーカフの見本を、あっという間に完成させた。
イヤーカフを自分で、いざ制作!
ガスバーナーの前に座ると少し緊張したけれど、初めての体験にウキウキする気持ちが勝った。左手にガラスの棒を持ち、ゆっくり火の中にいれる。ほどなくして、ガラスはオレンジ色にぽぉっと光り、真っすぐだった棒がぐにゃりと曲がる。それがあまりに突然で、慌ててしまった。
「わっ、どうしようどうしよう」なんて驚きながら、ガラス棒を少しずつずらして、丸いイヤーカフを目指す。あたふたする私を「上手だよ~!センスいいね!」と、三浦さんはたくさん褒めてくれた。嬉し恥ずかしくて、ふふっと頬がゆるむ。
一番難しかったのは、ぐるっと一周させたガラスをくっつける作業。それまでは平行だった輪の形が、少し歪んだ。「温めながらこれで挟むと、たいらに戻るはず」と、三浦さんが道具を差し出してくれる。言われたままにガラスを挟んでみるも、なかなか難しい。「この歪みも味だね」なんて、そのまま仕上げることにした。
私が選んだガラスは不思議で、真っ赤なガラスを溶かすと透明になり、電気釜で再度熱を加えることで、もとの赤色に戻るものだった。そのため、形ができてから約3時間、加熱をする必要があり、受け取りは後日することにした。今日を境に、また忙しい日々が始まるのだから、待つ楽しみも喜ばしい。
体験後のおしゃべりも癒しの時間
お店に到着して約1時間。ガラスアクセサリーを作るのも楽しかったけれど、三浦さんとのおしゃべりも、やっぱり私の心をほぐしてくれた。
いつ会ってもおしゃれで、色とりどりのアクセサリーを楽しむ三浦さんは、中学生と小学生のお子さんがいる2児の母。子供に手がかかるうちは、おしゃれをする余裕もなかったという言葉に驚かされる。
今はじっくりと服やアクセサリーを選び取ることができないけれど、母親としての先輩である三浦さんと話す中で、我が子の今しかない日々を、もっと楽しみながら、味わいたくなった。肩の力も、なんだか抜けた気がする。kirakoで過ごした時間が、からだも一緒にほぐしてくれたなあと帰路についた。
子育てをしていてもしていなくても、私たちの毎日は結構いそがしい。今日を一生懸命過ごせば、あっという間に一週間、一か月、そして一年が過ぎていく。明るい気持ちで過ごせるときもあれば、文字通り心をなくして忙しなく過ぎるときもある。
だからこそ、身も心も元気になる予定を、ときどきいれよう。初めての体験に飛び込んだり、好きな人に会いに行ったり、思い切りからだを休めたり。車や電車、もしかしたら歩ける範囲にも、ショートトリップできる場所はあるかもしれない。心惹かれた場所を訪ねるワクワクは、日々を支えるお守りになるはずだ。
出かける先の選択肢に、南相馬があったなら。kirakoだけでなく、日常と地続きで楽しめる場所がたくさんあると伝えたい。観光地ではないからこそ、まちを見渡し、歩き、あなたならではの楽しみ方を見つけてもらえたら、地元民として誇らしく思う。
kirako-キラコ-
南相馬市で生まれ育ったNonchiとchanmaruが運営するガラス工房兼ギャラリーショップ。二人は幼稚園からの幼馴染。仲の良さとお互い切磋琢磨する関係性も美しいです。リングやピアスなどのアクセサリーのほか、スプーンなどの雑貨類も販売。環境問題にも真摯に向き合い、南相馬の海辺で拾ったシーグラスを使ってアクセサリーを制作、販売も行っています。自分の好きなことを磨き、技術をもって、社会も嬉しい取り組みをする二人の姿こそ、キラキラして目に映ります。
Nonchi Instagram
chanmaru Instagram
- 住所
- 〒975-0007福島県南相馬市原町区南町1丁目167
- 営業日
- 火・木・土曜日 10:30-17:00
- https://www.instagram.com/kirako0610/
- 駐車場
- あり
Writer Profile
蒔田志保
1993年生まれ。愛知県出身。結婚を機に、2018年に福島県南相馬市へ移住。現在は福島県浜通りを中心に、取材や執筆、撮影を行う。
<ライターおすすめ!相双地域の好きな場所>
相双地域の好きな場所は、本との偶然の出会いが楽しめる「南相馬市立中央図書館」。コミックや雑誌も充実していて気分転換や暮らしのヒントをもらいによく立ち寄ります。